2024.02.22
お知らせ人手不足解消や生産性の向上に貢献する産業用ロボットですが、適切な運用が行われない場合、労働者を危険にさらす可能性もあります。そのため事業者は労働災害防止を目的として、労働者に「特別教育」を行わなければなりません。
この記事では、産業用ロボットに関する特別教育の内容や費用、開催場所について解説します。
産業用ロボットの特別教育とは?
「特別教育」とは、一定の危険や有害性が伴う業務を行う労働者に対し、事業者が施さなければならない安全や衛生を目的とした教育のことです。特別教育は、労働者の安全と衛生についての基準を定めた「労働安全衛生法(安衛法)」の第59条第3項によって言及されています。
労働安全衛生法第59条第3項 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。 |
安衛法の事項を具体的に定めた「労働安全衛生規則(安衛則)」によると、産業用ロボットを用いる業務も特別教育の対象です。
特別教育の対象者はロボットに少しでも関わる可能性のある労働者全てで、実際にロボットに触れる人物だけでなく、作業を監視する人物なども含まれます。未修が発覚すると、業務停止措置や「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科される場合があるので注意しましょう。
履修歴は一種の国家資格として扱われるため、履歴書にも記載可能です。(修了証は開催場所によっては発行しない場合もあります)
特別教育なしでロボットが使用できる場合
産業用ロボットとは異なり、「協働ロボット」なら特別教育なしで使用可能です。協働ロボットは2013年(平成25年)の安衛則の改正によって新たに登場したカテゴリーで、以下のような特徴のものが該当します。
協働ロボットの特徴 ・定格出力が80w以下のモーターを使用している、あるいは80w以上のモーターが使われているがISO規格の準じた措置がとられている ・労働者への特別教育が不要 ・機体周囲の柵や囲いの設置などの安全措置が不要 |
協働ロボットはあくまでも人間との協働が前提なので、産業用ロボットのように作業工程の完全な無人化はできません。しかし低出力で事故のリスクが小さいため、従来の生産ラインを維持したまま業務改善を行えます。
産業用に比べて低コストな協働ロボットは、資金面でロボットの導入が困難だった中小企業にも積極的に採用されています。
特別教育には「教示」と「検査」の2種類ある
特別教育の内容は「安全衛生特別教育規程」によって定められ、「教示」と「検査」に該当する業務に関わる労働者は全員受講しなければなりません。 講習内容は、法令やロボットについての座学である「学科」と、実際にロボットの操作しながら学ぶ「実技」に分かれています。
以下、それぞれの特別教育について解説します。
ロボットに動作を記憶させる「教示」
産業用ロボットの「教示」については、安衛則第150条第3項に具体的な規定があります。
科目 | 範囲 | 最低学習時間 | |
学科 | 産業用ロボットに関する知識 | ・産業用ロボットの種類 ・各部の機能および取扱方法 | 2時間 |
産業用ロボットの教示等の作業に関する知識 | ・教示等の作業方法 ・教示等の作業の危険性 ・関連する機械等との連動方法 | 4時間 | |
関係法令 | ・法、令および安衛則中の関係条項 | 1時間 | |
実技 | 産業用ロボットの操作の方法 | - | 1時間 |
産業用ロボットの教示等の作業方法 | - | 2時間 |
参照:安全衛生特別教育規程第18条(産業用ロボツトの教示等の業務に係る特別教育)
「教示」は別名「ティーチング」とも呼ばれ、ロボットに動作や位置、速度を記憶させる行為を指します。 業務上ロボットの稼働時に行う必要があり危険を伴うので、特別教育を実施しなければなりません。
ロボットのメンテナンスに関わる「検査」
産業用ロボットの「検査」については、安衛則第150条第5項に具体的な規定があります。
科目 | 範囲 | 最低学習時間 | |
学科 | 産業用ロボットに関する知識 | ・産業用ロボットの種類、制御方式、駆動方式 ・各部の構造および機能、取扱方法 ・制御部品の種類および特性 | 4時間 |
産業用ロボットの検査等の作業に関する知識 | ・検査等の作業方法 ・教示等の作業の危険性 ・関連する機械等との連動方法 | 4時間 | |
関係法令 | ・法、令および安衛則中の関係条項 | 1時間 | |
実技 | 産業用ロボットの操作方法 | - | 1時間 |
産業用ロボットの教示等の作業方法 | - | 3時間 |
参照:安全衛生特別教育規程第19条(産業用ロボツトの検査等の業務に係る特別教育)
「検査」は産業用ロボットの修理や調整、点検などメンテナンスに関する業務を指します。 基本的にロボットの停止時に行われるのが原則ですが、稼働時でないと行えない業務もあるため特別教育は必須です。 この業務はロボットに関するより深い理解を要求するため、「教示」よりも長い講習時間が設定されています。
特別教育を受けてもすぐに実践できるわけではない
特別教育の注意点は、履修要項を満たしても、必ずしも十分な実務能力を獲得できるわけではないことです。 理由は、講習先によっては、必要最低時間のみの実施であったり、実技用ロボットの機種が限定されていたりするからです。 講習先選びに間違えてしまうと、講習内容は受講者が必要とする水準に達せず、安全意識や実務能力には不安が残ります。
また教育内容が不十分だと、事故のリスクを抱えるだけでなく、「教示」や「検査」を行う度にわざわざ費用を出して業者を外注しなければなりません。 講習をより実のあるものにするために、使用するロボットやカリキュラムの充実性など幅広く考慮して講習先を選択しましょう。
特別教育の受講場所や費用は?
産業用ロボットの特別教育の開催元としては、主に以下が挙げられます。
・ロボットSIer
・ロボットメーカー
・労働基準連合会
それぞれ異なった特徴があるので、講習先を選ぶ際の参考にしてください。
ロボットSIer:実践的な教育を各地で受けられる
ロボットSIerは関連企業が各地にあるため、事業所付近の講習先を見つけやすく、交通費などの経費を抑えやすいのが魅力。 ロボットSIerとは、ロボットの導入から実際の運用まで幅広くサポートする企業の総称で、導入支援の一環として特別教育も行っています。
SIerはロボットに関する豊富なノウハウがあるため、より実践的な技能や最新の知見を学べる点がメリットです。実技用の機種が必ずしも導入機種と同じものとは限りませんが、ロボット全般に精通しているので、十分に対応可能です。費用は1人3万円〜と、開催元や講習内容によって幅広く設定されています。
企業によっては、出張で特別教育を行っているところもあるのでチェックしてみましょう。 下記リンクから条件に合う開催元が検索できます。
ロボットメーカー:導入機種に合わせた講習が受けられる
メーカーによる講習は、基本的にメーカーの施設がある場所でしか受けられないため、 スケジュールや宿泊費などの負担が大きくなる可能性があります。また講習費も割高な傾向にあり、1人10万円を超えるところも珍しくありません。
一方、メーカー講習は導入機種と同型機を使用することで、より具体的な知識・技術を習得できるメリットがあります。 さらに企業によっては、受講者の目指すスキルに合わせて複数のコースを設けている点も見逃せません。
「自社ロボットの導入企業のみ」などの参加制限を設けているメーカーもあるので注意しましょう。
労働基準協会連合会(全基連):学科しか扱っていない場合もあるので注意
「労働基準協会連合会」の支部なら、ほとんど全国で特別教育を受けられます。(大阪など一部未実施の地域もあり) 労働基準協会連合会とは、労働基準法や安衛法の普及啓発を目的とする組織で、全国47都道府県に支部があります。
講習費は安価な傾向ですが、地域によっては取り扱いが「学科」のみの可能性もあります。 その場合は別途「実技」だけを受講する必要がありますが、講習が短期間で一旦終わるため、捉えようによってはスケジュール管理が楽というメリットになりえます。
「実技」を実施している地域でも、実技用ロボットの機種が限られているため、十分なノウハウを獲得できないかもしれません。
特別教育修了者には「ロボット・セーフティアセッサ」の資格もおすすめ
労働者に対する特別教育は事業者の義務ですが、それだけでは十分なリスクマネジメントとはいえません。 より安全な労働環境を整備したい企業には、一般社団法人のセーフティグローバル推進機構が発行する「ロボット・セーフティアセッサ」取得を検討してはいかがでしょうか。
この資格はロボットに関するリスクアセスメントやリスク低減についての専門性を認証する資格で、特別教育履修後のステップアップとしてぜひおすすめしたい資格です。 資格保有者を1人でも育成しておけば、システムの安全方策の妥当性の判断や、改善案の提案などリスクマネジメントの可能性が大きく広がります。
ただしこの資格自体は国家資格ではないため、特別教育の受講は免責されません。あくまでも履修後の付加価値としてとらえるべきでしょう。
九州・福岡で産業用ロボットの特別教育を受けるならICS SAKABEがおすすめ!
九州で特別教育を受講するなら福岡のロボットSIer「ICS SAKABE」が主催する「ロボットセンター小倉」の利用がおすすめです。 ロボットセンター小倉では「教示等」と「教示等+検査等」の2種類の特別教育コースが開講されています。
教示等コース | 教示等+検査等コース | |
科目 | 学科・実技 | 学科・実技 |
日程 | 2日間(土日は休講)9:00~16:30 | 2日間(土日は休講)8:30~19:00 |
費用※ | 37,400円(税込)/1名 | 42,900円(税込)/1名 |
使用機種 | YASKAWA(定員8名) ・GP7(コントローラー:YRC1000) 安川電機 ・MH5(コントローラー:DX100) 安川電機 FANUC(調整中のため受付不可) ・CR7iA/L(コントローラー:R-30iB Mate)ファナック | |
持ち物 | ・筆記用具、動きやすい服装、動きやすい靴 | |
開催地 | 福岡県北九州市小倉北区片野新町2-2-21 | |
TEL | 093-932-7480 |
※テキスト代と2日間の昼食代を含む。
ICS SAKABEはロボットSIer協会の会員企業で、ロボットの導入支援に関して豊富な実績があります。 両コースともに手頃な料金設定なうえ、わずか2日間で教育課程を満たせるのでスケジュールの都合をつけにくい企業にもおすすめです。 テキストやヘルメットなどの備品も開催元が用意するため、特別な準備がいらない点も見逃せません。
気になる人は下記リンクよりぜひ詳細を確認してみてください。
まとめ
産業用ロボットの導入にはロボット本体だけでなく、労働環境の安全性を確保するための費用もかかります。 中でも特別教育は費用だけでなく、日程調整・開催地・目指す技能レベルまで考慮に入れなければ十分な効果を発揮できない可能性もあります。 ロボットを効率的に運用していくためにも、広い視野から講習先を検討しましょう。